So-net無料ブログ作成
検索選択
前の5件 | -

約束の時間

 誰かと待ち合わせをしたときは、時間ピッタリに行くようにずっと心がけていた。遅れることはせず、早めに着くにしても5分くらいの計算で家を出るようにしていた。ちょっと相手を待つくらいが自分でちょうどいい感じだった。
 
 けれど年配の人と約束したときは、たいていの場合待ってもらっていた。それで相手の人がかなり早く待ち合わせ場所に到着しているということに気がついたのである。
 約束の時間を守っているのに、遅刻したような気まずい思いをすることが多かった。待たせるのは申し訳ないし失礼である。それならと、年上の人との待ち合わせのときは30分ほど早く着くようにすると、ちょうどよくなった。
 
 別にいやではないけれど、どうしてそんなに早いのだろう、といつも思っていたものである。
 それが、だんだん歳を重ねてくると、仕事にしても何にしても、「早めに行きたい」という気持ちになってきて不思議なものである。
 電車が遅れたらどうしようとか、おなかが痛くなったらとか、懐かしい人にばったり出会ってしまったら、とかさまざまなことを考えて、かつかつではなく、時間に余裕を持っていたいという気になるのである。
 今はスマートフォンの乗り換え案内という便利なものがある。例えば神戸で夕方6時から会議があるとしたら、30分前に駅に着きたいと思って検索すると、家の最寄りの駅に何時に行けばいいかがわかる。
 駅までは歩いて10分ほどだから、と計算して家を出ればいいのである。
 
 ところが、これもぎりぎりだと途中で何かあったらと不安なので、少し早めに出発することになる。すると早めに駅について一本早い電車に乗れたりする。
 すると次の乗り換えも早くなり、元々の到着設定時間も早いものだから、ずいぶん早く目的の駅に降り立つことになってしまうのである。
 近頃、こういうことがしばしばある。そのまま会場に行ってもいいのだけれど、少し早すぎる気がする。ぽっかりと空いた時間ができてしまうのである。
 こういうときは駅前の商店街を反対方向へぶらぶらと歩いてみたり、わざと遠回りをして知らない道を通ったりする。
 頭の中のスイッチはオフになっていて、別に何かを考えることもせず、おそらく存在感も薄くなっていると思う。ほとんど透明になっているかもしれない。めずらしいお店があれば覗くこともあるし、ああ、こんな表札のこんなおうちがある、などと思いながら街並みを眺めることもある。
 
 この時間に意味があるとは言わないけれど、無駄なものとも思わない。
 そうしている自分を確認しているような、とても微妙な時間である。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

愛しておくれ

 NHKの朝ドラを熱心に見ている。ちょうど仕事に出る前の時間なので、それに合わせて化粧をするようにしている。主題歌の桑田圭祐の声が聞こえるまでにその他の用事を全部済ませてテーブルの椅子に座るのである。
 
 ビートルズの来日公演の騒動が終わって、主人公みね子の幼なじみが再登場し、また新しい展開が期待されるところである。
 今朝の放送で、みね子が想いを寄せる大学生が、ビートルズの公演チケットについて告白する場面があった。
 みね子は熱烈なビートルズファンの叔父のために、なんとかチケットを入手しようと懸賞付きの歯磨き粉を大量に買い込んで応募するが、努力は無駄に終わり、チケットを手にすることはできなかった。
 それを承知の上で茨城から叔父の宗男が上京してくる。居ても立ってもおられずにバイクでやってくるのである。
 大学生の青年のもとに佐賀県の裕福な実家から、父親がつてをたどって手に入れたチケットが届くが、彼はそのことが言い出せない。彼はビートルズにそれほど興味がない。しかし苦労もなくチケットが送られてくる。そういう自分を、「恥ずかしい」と感じるのである。
 
 まさに“はづかし病”で共感できる。結局、彼はチケットを宗男に差し出すが、事情を聴いた宗男は通りすがりの女の子にそのチケットをあげてしまうのだった。
「なんで?」と普通は思うだろう。あんなに行きたがっていたのに。
 当時、チケットを手にできたのは、選ばれた人たちで、その周りにはおびただしい数の選ばれなかった人たちがいたのだろう。彼らはあえてその選ばれなかった人たちのなかに身をおこうと決めるのである。
 しかし、「もったいないなー」と思う。“はづかし病”に対抗できるのは“ひらきなおり”である。
 あえてのあえてで、やっぱりここは行く、というパターンが、他の脚本家ならあったかもしれない。
 
 このドラマに初めから登場している宗男役を演じている峯田和伸という人が、私はずっと気になっていた。
 調べてみると銀杏BOYZというバンドをやっているミュージシャンで、評価の高い演技をする俳優としても有名な人だということがわかった。
 GOING STEADYというバンドで彼が歌う「愛しておくれ」を聞いて、ああ、この人だったのか、と気がついた。繊細でシャイでおおらかで、なんとも言えない魅力のある人である。
 大阪の片隅で日々の生活にまみれながら、ひっそりとファンでありつづけたい、と思える人である。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

毎日がハードル走

 日常というのはハードル走のようだな、と思うときがある。
 ひとつのハードルをぴょんと飛んだら、前方に次のハードルが見える。たどり着く間に準備を整えてそれも飛ぶ。高さはそれほどでもない。普通に飛べるハードルである。そうやって日々が流れていく。

 ひとりの休日で、何にも予定がなかったとしても、おなかが空いたらご飯を作らなければならない。冷蔵庫に牛乳が切れていたら買いに行かなければならない。
 作らなくちゃ、作らなくちゃ、とか、行かなくちゃ、行けなくちゃ、と思うところにハードルが出現しているのである。
 近くのコンビニに行くにしても、寝起きの服を着替えて顔を洗って戸締りの確認をしなければならない。そういえば何かの支払いがあったなと用紙を探しだしたり、ポストに入れる葉書きがあったりする。
 
 中学校のときの体育の先生が、ハードル走を専門にやっている人だった。それで何かの機会に先生がハードルを飛んでいるところを見たのだった。走るスピードをできるだけ落とさず、上体を低くしてその態勢を崩さないままで飛び続ける姿が目に焼き付いている。
 平常心で冷静に自分の脚をコントロールしているようだった。私だったら脚がもつれて気が動転して滅茶苦茶にしてしまいそうだと思った。
 
 先月末に娘が自宅に戻り、顔を上げて自分の前方を見てみると、いくつものハードルが非常に狭い間隔で並んでいることに気が付いた。しかも各地に行って何人もの人に会うのである。
 どれひとつとっても失敗して倒していいものはない。確実に飛び越えなけばならないものばかりである。そのためには綿密な準備も必要だった。
 
 仕事の合間を縫って、神戸で用事を済ませてそのまま四国の徳島行きのバスに乗った。このときは舞子駅での初めての乗り換えがうまくできるだろうかと物凄く不安だったが、ホームページに写真入りの丁寧な案内があり、そのおかげでクリアすることができた。
 またその数日後、福岡からの帰りの新幹線が、架線事故のため途中の相生駅で動かなくなったときは、突然イレギュラーなハードルが目の前に出現したようだった。
 本来なら眠っている間に新大阪駅に着いて夜の9時半には家に帰っている予定だった。それが数時間の足止めのあと、復旧には相当な時間がかかるという放送があった。在来線は通常通りに動いていると聞いたので乗り換えることにした。スマートフォンで調べると、姫路で新快速に乗り換えればなんとか最終電車に間に合うことがわかったのである。
 決断が早かったので払い戻し手続きを済ませてホームに降り立ったとき、まだ人はまばらにしかいなかった。夜の10時をまわっていた。風の吹き抜ける見知らぬホームで、乗り換えの段取りを確認しながら足元が震えているのがわかった。
 
 しかしそれでも12時半には家に帰れたので、線路上での停車に比べると幸運だった。翌日は京都の文章講座があった。そのあと娘の家を訪ねる予定もあった。
 それらをなんとか全部飛び超えて、明日の夜は友人に会いに出かける。半年に一度くらい、近況を報告し合う古い友人で、これがとりあえずのゴールという感じである。
 この約束をしたときは、ここまで無事にたどり着けるのかな、と思ったものだけれど、今はホッとしているところである。
 彼女は誕生日が近いので、早めに出てちょっとしたプレゼントを選ぼうと考えている。
 これは心がうきうきする楽しいハードルである。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

祖母になる。

 自分自身は何も変わっていないのに、祖母になったというだけで年老いたように感じる。
 人がおもしろいと感じる感覚のひとつに、イメージと本人のギャップというのがあると思う。
 おとなしそうなのに実は空手をやっている、とか常識家に見えるのに実際は変人である、とかそういうことである。同じような感じで、おばあちゃんにはとうてい見えない、というのがあるとしたら、私はいつまでもそうでありたいと思う。
 
 けれど、“ばあば”が嫌なわけではなく、どちらかというと嬉しいくらいで、予想外に自然に受け入れている自分がいる。それで、なんとなくだけれど、祖母になったという自覚ができてしまって意識を若く保っていられない現象がおきているのである。

 同じ年でも結婚していない友人はいつまでも少女のような心持ちでいられるだろう。けれど私は近頃、洋服などもつい地味な色を選んでしまったり、数年前ならこれにしたかもしれないが、いくらなんでもこのデザインはもう無理だろう、と考たりしている。
 それに加えて実際の老化というものがある。私の場合は特に視力である。このところ老眼が一段階進んだようで、本当に見えにくくなっている。細かい字が全く読めない。先日などは、生まれて初めて百人一首の取り札の文字がかすんで見えた。ずっと視力が良かったので使ったことがなかった目薬を買ってきて点眼している。
 それからとても忘れっぽくなっている。この前は駅まで自転車で行ったことを忘れて歩いて帰ってきてしまい、また歩いて自転車を取りに行った。始まる前に買ったパンを体操教室に置き忘れて帰ってきてまた往復30分かけて取りに行ったこともある。
 以前はこんなことしなかったのにと泣きそうになりながら、誰も行ってくれないので自分で取りに行くのである。
 
 自分の祖母のことを考えると、二人とも“おばあちゃん”で、自分自身に直接関わってくる存在ではなかったように思う。
 それが当然だと思っていた。昔話を聞かせてくれて、甘えさせてくれて、そして必ず自分より先に死ぬ人だった。
 
 外見も能力も衰えていく。それでも今の私は思うように動けるし、自分が自由に使える時間がある。行こうと決めたら外国へも行ける。読みたい本を読み、観たい映画を観て、聞きたい音楽を聞く。いろんなことに感動していろんなことを考える。
 外見ではなく中身が、おばあちゃんらしくなくいられることを目指すしかない、という感じである。

nice!(0)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

誕生

 赤ちゃんが生まれた。3008グラムの女の子である。
 予定日を9日過ぎて、毎日歩くことに意味があるのかわからなくなってきた、と娘は言い出すし、周囲も、このままおなかがしぼんでいくということはないだろうけど…、とため息をつくような状態になっていた。
 それで検診の際に医師から、そろそろ入院しますか、と言われてその日に入院し、子宮の口が少しずつ開くようにバルーンを入れることになったのだった。するとその夜に陣痛が始まったのだった。
 娘の夫は翌日の仕事を休んで朝から付き添い、彼のお母さんも昼前には病院に駆けつけてくれた。正午に子宮口が3センチ開いたという連絡をもらったので私はもう少し待ち、6センチになった午後3時頃に病院へ向かった。
 陣痛室はその名前の通り、妊婦が陣痛に耐えるための部屋である。痛みに顔をゆがめて呻き声を発している娘の姿を見るのはつらかったがどうすることもできない。大きな病院でスタッフの数が多く、頻繁に覗きにきてくれるけれど彼女らもその痛みをとるための処置はしない。女達は皆この痛みを自力で乗り越えなければならないのである。
 
 私は「産みの苦しみ」なんて言葉を簡単に使うものではないな、と実感しながら、カーテンを隔てた場所でもう一人のお母さんと一緒に座って待っていた。
 痛がる声は次第に大きくなり悲鳴のようになっている。根気強く付き添う婿が偉かった。
 10センチ開いたところで、
「では分娩台のほうへ」
と言われて、隣の分娩室に移動した。
 この段階では胎児はまだ上のほうにいたようだった。
 次に陣痛の波がきたら思い切りいきむように言われていた。私も、ああ、そういえばそうだったな、と自分のときのことを思い出した。
 中学高校と吹奏楽部でトランペットとサックスをやっていた娘は腹式呼吸に慣れていて、いきみ方のイメージトレーニングだけはできていたらしく、一度目で赤ん坊はぐぐぐっと下がった。
「すごい! すごい! 上手!」
というスタッフの人達の声が聞こえた。
二度目で頭が出て歓声が起こった。
「次で出すぅ」
と娘が言って、本当に三回目で赤ん坊はこの世界に出てきた。
 普通は二時間ほどかかるところが20分ほどで終わり、後から思えば安産だった。
 
 カーテン越しに初めての泣き声が聞こえたとき、
「あっ、泣いた」
と私は思わず言った。
 その瞬間におばあちゃんになった二人は泣きながら手を取り合ったのだった。

 ずっと違う世界にいた赤ん坊は、新しい世界にきて不安にとまどっているようである。
姿を見ると、こんな子がおなかの中に入っていたんだなぁ、と思う。
 私は一週間病院へ通い、退院に付き添い、その後は家でひたすら母子の世話をしている。おむつが無くなれば買いに行き、半袖の服がいるといえば用意し、沐浴の準備、哺乳瓶の煮沸、ベビー専用洗剤での洗濯等に追われている。栄養のあるご飯を作り、家じゅうを清潔にしていたい。来客も多くなるが、時間の許す限り赤ん坊を抱っこしたい。
 
 まだ落ち着いて考えられないけれど、人生ゲームの駒がひとつ先に進んだのは確かなのだろう。
 

nice!(0)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感
前の5件 | -